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カスタマーレビュー
おすすめ度:
真空地帯は何処にもない
(2008-06-08)
軍隊が真空地帯であるというならば、世間も社会も家庭も、どこであっても真空地帯であろう。戦争は異様な空間を構成し、そこにいる人間は特殊な境遇に置かれる。そうした特殊な環境下では人間はあらゆる人でなしの行為をするし、それはまた仕方ない(許される)という論理はそこから生まれよう。
なるほど戦争の現場は異常だ。しかし、それは特権化された環境ではない。
とまあ、以上のごとき評価は、もっと精緻に大西巨人が何年も前に展開しているが、この度初めて本書をひもといてみて、その粘着的な文体には、少々辛くもあったが畏れ入った。戦争と軍隊と天皇制をテーマとした小説として読むべき1冊ではある。結構時間がかかる。
戦争文学の傑作
(2008-03-19)
文学史年表に載ってた、という理由で読み始めたのですが最初は読んでいるのが辛いぐらいでした。もともと大日本帝国軍の(上層部を除く)組織的な腐敗に関する知識はテレビやマンガでちらっと見た程度でしたが別に予想外という程の描写もなかった上(といったら失礼かも知れませんが)、野間さんの文章は一文が長く時々主部と述部がずれてしまっていたりして非常に読みにくかった。正直に言えば文学史内における知名度に比べ、文章があまりうまくないように感じます。もちろん、下手ではありませんが。さらに軍隊特有の固有名詞も頻発するので読むのなら或る程度覚悟して読むべきかもしれません。特に当時の兵隊が一体どのような格好をしていたかというあたりは頭に入れておいたほうが読むのは楽ですね。
ですが、後半になってからはものすごい迫力で迫ってくる。実話ではないのでしょうが、ここまでなのかと目を覆いたくなるような腐敗ぶりが伺えて一気に引き込まれてしまいました。内容はだいたい、主人公と準主人公である刑務所帰りの兵隊の話なのですが、大した罪でもない準主人公が刑務所に放り込まれたのはなぜなのか、また放り込んだのは誰なのか、と最初からすこし推理っぽいのです。中盤ではそれらに一応の見当がついたように見えで一旦落ち着きます。が、終盤でのどんでん返しが凄まじい。本気でしびれましたね、あれは。読んでいて「ええっ!」と言いそうになりました(言ったかも)。ネタをばらすことはしませんが、みなさんにも是非この衝撃を味わっていただきたい。すごいです。
ただ、あたりまえですが娯楽小説じみたサスペンス物とは違います。兵隊達の堕落は資料的に面白い部分がありますし(著者は従軍経験を持っているので細かな挿話は事実に基づいていると見ていいでしょう)、兵隊ならではの哀愁漂う情景も効果的に挿入されておりどんでん返しが用意されていなくても及第点はあるといっていいとおもいます。そこが戦争文学の傑作とされる所以なのでしょうがね。
少し調べてみると諸外国語にも翻訳され、良く読まれたようです。日本人ならば読んでおきたい小説かもしれません。
現代における組織と人間
(2005-08-23)
今回の岩波文庫の復刻の中に、戦後第一世代を代表する作家の一人、野間宏の作品が含まれていたことは喜ばしい。彼の代表作がこの「真空地帯」である。
この作品は戦前の日本軍批判だと言われており、インテリ階層であったにも関わらず下士官ではなく一兵卒として徴兵された彼自身の経験が反映されていると言われている。しかし、左翼的作家であると言われた彼の軍隊批判としてだけ読むのではこの作品は浮かばれないであろう。
「軍隊」とは、被用者を疎外してしまう現代の組織一般の象徴として読めるのではないか。その組織が巨大であればあるほど、一個人がその体質を変えようとする抵抗は抹殺されてしまう。ではどのように個人は生きてゆくべきか? それを古典的なかたちで描いたのが本作であり、同じ「組織に抗する人間」を現代的なテーマで描いたのが村上龍の「愛と幻想のファシズム」であると読めないだろうか。
この本を読み終えたら次は「わが塔はここに立つ」であり、同じく復刻出版された「青年の環」である。
ああ、美しき…。
(2004-01-14)
藤色と黒をないあわせた帯締めをぴっちりと締めて…。キレイです。
おすすめ度:
真空地帯は何処にもない
軍隊が真空地帯であるというならば、世間も社会も家庭も、どこであっても真空地帯であろう。戦争は異様な空間を構成し、そこにいる人間は特殊な境遇に置かれる。そうした特殊な環境下では人間はあらゆる人でなしの行為をするし、それはまた仕方ない(許される)という論理はそこから生まれよう。
なるほど戦争の現場は異常だ。しかし、それは特権化された環境ではない。
とまあ、以上のごとき評価は、もっと精緻に大西巨人が何年も前に展開しているが、この度初めて本書をひもといてみて、その粘着的な文体には、少々辛くもあったが畏れ入った。戦争と軍隊と天皇制をテーマとした小説として読むべき1冊ではある。結構時間がかかる。
戦争文学の傑作
文学史年表に載ってた、という理由で読み始めたのですが最初は読んでいるのが辛いぐらいでした。もともと大日本帝国軍の(上層部を除く)組織的な腐敗に関する知識はテレビやマンガでちらっと見た程度でしたが別に予想外という程の描写もなかった上(といったら失礼かも知れませんが)、野間さんの文章は一文が長く時々主部と述部がずれてしまっていたりして非常に読みにくかった。正直に言えば文学史内における知名度に比べ、文章があまりうまくないように感じます。もちろん、下手ではありませんが。さらに軍隊特有の固有名詞も頻発するので読むのなら或る程度覚悟して読むべきかもしれません。特に当時の兵隊が一体どのような格好をしていたかというあたりは頭に入れておいたほうが読むのは楽ですね。
ですが、後半になってからはものすごい迫力で迫ってくる。実話ではないのでしょうが、ここまでなのかと目を覆いたくなるような腐敗ぶりが伺えて一気に引き込まれてしまいました。内容はだいたい、主人公と準主人公である刑務所帰りの兵隊の話なのですが、大した罪でもない準主人公が刑務所に放り込まれたのはなぜなのか、また放り込んだのは誰なのか、と最初からすこし推理っぽいのです。中盤ではそれらに一応の見当がついたように見えで一旦落ち着きます。が、終盤でのどんでん返しが凄まじい。本気でしびれましたね、あれは。読んでいて「ええっ!」と言いそうになりました(言ったかも)。ネタをばらすことはしませんが、みなさんにも是非この衝撃を味わっていただきたい。すごいです。
ただ、あたりまえですが娯楽小説じみたサスペンス物とは違います。兵隊達の堕落は資料的に面白い部分がありますし(著者は従軍経験を持っているので細かな挿話は事実に基づいていると見ていいでしょう)、兵隊ならではの哀愁漂う情景も効果的に挿入されておりどんでん返しが用意されていなくても及第点はあるといっていいとおもいます。そこが戦争文学の傑作とされる所以なのでしょうがね。
少し調べてみると諸外国語にも翻訳され、良く読まれたようです。日本人ならば読んでおきたい小説かもしれません。
現代における組織と人間
今回の岩波文庫の復刻の中に、戦後第一世代を代表する作家の一人、野間宏の作品が含まれていたことは喜ばしい。彼の代表作がこの「真空地帯」である。
この作品は戦前の日本軍批判だと言われており、インテリ階層であったにも関わらず下士官ではなく一兵卒として徴兵された彼自身の経験が反映されていると言われている。しかし、左翼的作家であると言われた彼の軍隊批判としてだけ読むのではこの作品は浮かばれないであろう。
「軍隊」とは、被用者を疎外してしまう現代の組織一般の象徴として読めるのではないか。その組織が巨大であればあるほど、一個人がその体質を変えようとする抵抗は抹殺されてしまう。ではどのように個人は生きてゆくべきか? それを古典的なかたちで描いたのが本作であり、同じ「組織に抗する人間」を現代的なテーマで描いたのが村上龍の「愛と幻想のファシズム」であると読めないだろうか。
この本を読み終えたら次は「わが塔はここに立つ」であり、同じく復刻出版された「青年の環」である。
ああ、美しき…。
藤色と黒をないあわせた帯締めをぴっちりと締めて…。キレイです。

